INTRODUCTION

2012年、世界各国では選挙によって新しい国家元首に代わる年である。これはオリンピックと同様に4年に1回、選挙がおこなわれているからだが、政党や候補者たちは、自分たちが有利になるようにあらゆる手を使って政治アピールをする。それが偽善だろうと、時には国民を欺くような情報操作であろうと、そして国家的事件であってもそれを利用するのである。

今から24年前の1988年、この年も世界は国家元首が代わる選挙が行われた。アメリカはレーガン政権からブッシュ政権に、そしてフランスも大統領選挙が行われ、二期目を狙うミッテラン大統領とシラク首相との熾烈な争いが行われていた。そんな選挙直前の1988年4月22日、"天国にいちばん近い島"と言われるフランス領ニューカレドニアのウベア島で、独立を狙うカナック族のグループがフランスの憲兵隊宿舎を襲撃し4人の警官を殺害、30人を誘拐する事件が起こる。10日間の後に事件は武力によって解決され、過激派19名の死亡と軍の死者2名、重傷1名、人質1名の負傷が発表された。だが、政府から発表されたこの報道は正確な報道ではなく、一部改ざんされた発表であった。実は制圧後に無抵抗の過激派5人を暴行のうえ射殺するという暴挙をフランス政府は隠ぺいしていた。そして政府の報道の矛盾をマスコミが追及したことで発覚、また後にこの制圧部隊の中で交渉役となっていたフランス国家憲兵治安部隊(GIGN)の隊長であったフィリップ・ルゴルジュ大尉が1990年に「La Morale et l'action(モラルと行動)」という手記を発表したことで、この事件はフランス政府にとって歴史の汚点のひとつとなったのである。

これまでも『サンチャゴに雨が降る』や『ミュンヘン』など実話に基づいた政治的背景による事件を描いた作品は数多く作られているが、本作はアイルランドで起きた血の日曜日事件を描いた『ブラッディ・マンデー』(未)と同様に当時の状況を忠実に描きながら隠された事件の真実の顛末を、『クリムゾン・リバー』や『アサシン(ズ)』など、発表する作品が常に話題となるフランス映画界の鬼才マチュー・カソヴィッツがハリウッドからの復帰第一作として監督、主演、脚本、編集を手掛けた作品である。

彼はこの「ウベア島」事件に興味を持ってから10年の月日を費やし、事件の入念なリサーチと、フランス政府、ニューカレドニアと、事件に関わった関係者各位に映画化の許可を得るために奔走し、本作品を作り上げた。だが、その内容にフランス政府は否定し、両サイドの遺族感情をも巻き込んだ賛否両論の作品となった。 事実が暴かれていくストーリーのみならず、ジャングル内の戦闘シーンなど、『プライベイト・ライアン』などで描かれたリアリティあふれる戦闘シーンをワンキャメラ、ワンショットで撮り、主人公が事件にかかわっていく過程や圧倒する映像は『地獄の黙示録』のような、観る者をこの事件の目撃者のように体感させていく状況は、まさに映画的な醍醐味を持った作品となっている。

共演には、『フェアウェル さらば悲しみのスパイ』のフィリップ・ブファール、『ジャック・ソード 選ばれし勇者』のマリク・ジティ、『サガン―悲しみよこんにちは―』のシルヴィー・テスチューに、キーとなるカナック族の過激派リーダー役には、仏在住のカナック族出身の新人イアベ・ラパカが起用された。

スタッフには、脚本をカソヴィッツと共作で『ジョニー・マッド・ドッグ』のブノワ・ジョベール、仏でテレビドラマを手掛けるピエール・ガレが担当し、撮影に『ジョニー・マッド・ドッグ』マルク・コナンクス、衣装を『バビロンA.D』のアニエス・べジ―、音楽を『マイアミ・バイス』『パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち』のクラウス・バデルトが担当した。 なお、本作品は2012年セザール賞脚色賞にノミネートされている。